「長生きできる食べ方」の立ち読みコーナー

長きできる食べ方

イタリア人生化学者が教える、
細胞から若返る5日間の科学的ダイエット

目 次

著者からのメッセージ 14
はじめに 17

第1章 カルーソの噴水 33
第2章 老化、長寿機能、若年学 51
第3章 5本柱 75
第4章 長寿食 89
第5章 運動と健康長寿 131
第6章 疑似ファスティング食、体重管理、健康長寿 141
第7章 がんの予防・治療における栄養と疑似ファスティング 165
第8章 栄養・FMD と糖尿病の予防・治療 189
第9章 FMD・栄養と循環器系疾患の予防・治療 215
第10章 FMD・栄養とアルツハイマー病など神経変性疾患の予防・治療 233
第11章 FMD・栄養と炎症性自己免疫疾患の予防・治療 253
第12章 若さを保つ秘法 271

レシピ 長寿食の例(2週間) 281
成分表 ビタミンやミネラルを多く含む食品のリスト 321
謝辞 345
注 351


著 者 か ら の メ ッ セ ー ジ

 米国のクリエイト・キュアーズ基金と 欧州のヴォル ター・ロンゴ基金は、健康長寿クリニックを展開して、きちんと評価された画期的な介入手法を標準的な治療に 組み合わせたいと考える患者やがん専門医の支援を進めている。栄養学と分子生物学に加え、我々の体にもともと備わっている、がんなどの病気と闘う力を活用することで、健康に長生きしていただきたいと考えているのだ。
 このような統合治療で進行がんなどに対処したいが金銭的に無理だという人々には、予算が許すかぎり、治療費を割り引く、無償で治療を提供するなどもしている。
 この関連でLヌトラという会社も立ち上げたのだが、私はここから給料をもらっていないし、持ち株から得られる利益も研究や救済事業に提供している。本書の印税も、クリエイト・キュアーズ基金とヴォルター・ロンゴ基金に全額を寄付することにしている。

 ちなみに、擬似ファスティング食(FMD)は臨床試験もおこなわれているので、自宅で個人的に FMD をするこ とも可能だ。ただし、健康な場合でも、管理栄養士に相談できるのであれば、事前に相談すべきである。とくに初回は相談を強くお勧めする。なにがしかの病気であると診断されている場合には、医師に相談し、許可を得なければならない。
 また、できるかぎり、我々の基金の栄養士や医師、専門家にも相談するようにして欲しい。ロサンゼルスにある我々のクリエイト・キュアーズ基金クリニックでも、欧州のヴォルター・ロンゴ基金クリニックでも、管理栄養士が院内の医師や分子生物学者と緊密に連携しているし、院外の専門家とも緊密に連携し、がんや糖尿病、循環器系疾患、神経変性疾患、自己免疫疾患など(進行がかなり進んでいるケースも少なくない)の治療を精力的に進めている。さらには、病気を避けて健康に長生きしたいと考える人々の支援もおこなっている。


は じ め に

 長寿長命に命の泉、永遠の若さ―昔から人類を虜にしてきたテーマだ。ご多分に漏れず、私も、10 代のころから魅せられてきた。
 ただ、そのころ私はロックスターになることを夢見ていたし、音楽で身を立てられると思ってもいて、そちらに進むつもりだった。だが、長生きの秘密を解き明かしたい、それができたら医療は一変するはずだという熱い想 いが冷めることはなかった。だから、大学 2 年生のとき、音 楽をあきらめ、年を取る仕組みの研究に打ち込むこととした。
 それから30年がたったいまもギターを弾いているが、同 時に、ロサンゼルスにある南カリフォルニア大学では長寿研 究所の所長として、また、ミラノにあるイタリア分子腫瘍研 究所では長寿・がん研究のトップとして、長生きの秘訣を求 める疫学調査、臨床試験、基礎研究に打ち込んでいるわけだ。
 私が求めているのは単に長く生きることではなく、健
康に長く生きること、いま、平均余命と言われている年数よりも長く、精力的で若々しい暮らしを続けることだ。そのために、私の研究室では、細胞レベルの研究から動物実 験、人が対象の試験まで、幅広い研究を何十年も続けている。目標は、学習能力、記憶力、体力などの向上と、がん、糖尿 病、循環器系疾患、さらには自己免疫疾患、神経変性疾患を 中心とする病気の予防と治療である。
 一般には、長生きしても病人でいる期間が長くなるだけだと考えられている。
 でも、若いあいだ体がどのように維持されているのかを明らかにできれば、90 代、100 代、さらにはそれ以降も、体の機能を維持できるはずだ。そう考えるに足るデータを私たちは得ている。そして、そのとき、私たちの体にもともと備わっている細胞や臓器の自己再生能力を活用するというのが基本的な対策のひとつになるはずだ。
 ところが、いま一般に食べられているものを食べていると、また、第一世界の食事が基本的にそうであるように、そうい うものばかりを食べていると、自己再生能力が働かず、それ こそ、30 代や40 代と若いうちから病気や老化に悩まされることになりかねない。この点については、30 年間の研究により、わりあいに簡単なやり方でこの能力を働かせられると確認することができた。難しかったのは、どうすれば、誰にでも安全に無理なく続けられるのか、だった。
 少し昔話をさせていただこう。
 私は、生まれも育ちもイタリア北部のジェノバ(クリストファー・コロンブスの生地)だ。ただし、夏休みは、両親の出身地であるイタリア南部のカラブリアですごした。そして、 16 歳のとき米国に来た。それまでも、ロックスターになって金と名声を手にする夢を抱き、エレキギターを爆音で演奏する近所迷惑を続けていたのだが、シカゴのおばを頼って音楽留学をすることにしたのだ。そして、すばらしい音楽シーンと米国でも一二を争うブルースとともに、米国の食生活に初めて触れた。
 子ども時代をすごした地域は、ふたつとも、世界的に見て も健康な食文化だったので、どこもそんなものだろうと私は 思っていた。だから、ひとり分がすごく多いこと、ほぼ毎食、肉とチーズを山のように食べること、甘い飲み物やお菓子があふれていることにひどく驚いたのをよく覚えている。
 もうひとつ、イタリアの実家ではあまり聞かない糖尿病や心臓病などをわずらう人がシカゴの親戚には多いことにも気がついた。あのころはふーんと思っただけだったが、いまふり 返ると、あの経験があったからこそ、私は、食事や病気、長寿に関する仮説を思いつき、確立できたのではないかと思う。
 音楽をもっと勉強しようとダラス郊外のノーステキサス大学に進学するころには、老化にも興味を引かれるようになっていた。30歳前後の友だちが、口をそろえたように、最近、年を取ったよなと愚痴っていたこともあるが、昔、祖父が亡くなったときその部屋にいたことなどが頭のどこかに引っかかっていて、それが私を新たな道に導く機会をうかがっていたのではないかと思う。
 というわけで、音楽のこともたしかに愛していたのだが、
学部 2 年生のとき、人が若くあり続ける方法の研究こそ、自分が生涯をかけてやりたいことだと気づき、生化学に転部して老化の研究をすることにした。そして、4 年後、ロサンゼ ルスに行き、カリフォルニア大学の博士課程で、老化の生物 学ならここと言われる研究室に入る。学問の一分野として認 められたばかりの長寿学と栄養学で世界をリードしていたロ イ・ウォルフォード教授の病理学研究室だ。有名な方なので、彼のことをご存じの方もおられるだろう。
 以来、私は、細胞の防御と再生をつかさどる遺伝子と栄養
の関係を中心に、30 年以上も健康長寿の研究を続けている。そうやって私が学んできたことをまとめ、わかりやすくて誰でもおこなえる形にしたのが、本書『長生きできる
食べ方』である。具体的には、ふだんは本書に記す栄養バ
ランスのよい食事とし、ときどき(健康状態に応じて年に2~12回)、疑似ファスティング食(FMD)、すなわち、つらい空腹にさいなまれることなくファスティングのメリットが得られる食事をすればいい。
 このふたつを組み合わせると体の保護や再生、活性化が促進され、若く健康でいられる期間を延ばせることが、私たちの研究で確認されている。そうなるのは生物 学的な老化時計が巻き戻されるからで、比較的に若い世代が おこなえば老化を遅らせたり病気を予防したりできるし、高 齢者ならもう少し若かったころの状態に戻ることができる。また、筋肉を減らしたり骨密度を落としたりすることなくお 腹の脂肪を減らす効果があることも、臨床的に確認されてい る。幹細胞を活性化し、細胞や組織、臓器を部分的に再生す るという、人体に備わっている驚くべき機能を呼び覚ますと、そのようなメリットを手にできるのである。
 そのようなことがなぜできるのか、また、どのような形でおこなわれるのかは、以降の章で順番に説明していこう。科学的知見や臨床経験をどう活用し、食べ方を極端に変える必要がなく、かつ、安全で実行可能な栄養戦略を科学的知見や臨床経験からどのように編み出したのかについても説明するつもりだ。私たちが提唱する食べ方は、いま、米国、欧州、アジアで数多くの医師に推奨されている。
 ダイエットや健康の本はちまたにたくさん出ているが、本書の特長は、広くさまざまな学問領域を基礎としている点である。
 食べ物については、あれがいい、これが悪いと、次から次へと新しい科学的知見が登場する。だから、私は、なるべく幅広い科学を基礎とすることにした。これが「長寿学の5本柱」である。ここで言う柱とは食事や運動といった介入方法のことではなく、どのような栄養をどう摂るべきかを判断する基礎となる領域だ。すなわち、①基礎研究/若年学研究(詳しくは後述するが、若年学とは、若くあり続ける科学である)、②疫学研究、③臨床研究、④百寿者(100 歳以上の人々)研究、⑤複雑系(たとえば自動車)の理解である。
 このように、できるかぎり広く、しっかりとした基礎をもとにお勧めの食事と運動を決めているので、確実に効果が期待できるし、今後研究が進んだとき、大幅な見直しを迫られる恐れも最低限となっている。過去 30 年間、これらの領域について研究し、多くの研究者から学んできた結果、一生活用していただけるであろうほどしっかりしたやり方を構築できたと思う。
 どうすれば若さを保って長生きできるのかを研究するため、私は、ロサンゼルスからエクアドル南部のアンデス山脈まで、さらには、沖縄、ロシア、オランダ、ドイツ南部と世界中を巡っ た。そして、最後は、原点のイタリアに戻ることになった。
 こんなことになるとは子どものころには思いもしなかった。
 でも、私が生まれ育ったイタリア北部は、65 歳以上の割
合が世界的にも高い地域であり(イタリア国家統計局によると、2016 年には28.3%だった)、毎年夏をすごした南部は、百寿者の割合が世界的にも高い地域だったのだ。だから、生涯の仕事として研究に取り組んだ結果、健康かつ元気に長く生きている人々の目を通して故郷を見直すことになったわけだ。
 これは、驚きの偶然であるとともに、大変にうれしいことである。いま、私には、長く生きる友だちが生まれ故郷にも世界各地にもいる。そういう友だちに背中を押されて生まれた本書が、自分もそうなりたいと願うみなさんの一助となれば幸いである。

製 品 と そ の 収 益 に つ い て

 本書は、どうすれば長く健康に生きられるのか、長年にわ たる研究の成果を活用していただくものなわけだが、実はも うひとつ、いい話がある。印税の全額が慈善活動に投じられ、
クリエイト・キュアーズ基金(総合的・効果的な治療が必要となる進行期や複合病の患者を支援するために私が創設した非営利組織)などを通じて有意義な研究に資金を提供できるのだ。
 実は私のところには、がんや自己免疫疾患、代謝障害、神経変性疾患など、深刻な病気だと診断された人々から、医師に示された標準治療以外の道はないだろうかと相談のメールが毎日のように届く。
 残念ながら、医療指針、訴訟に対する恐れ、過重な治療件
数、疾病のややこしさなどから、ほぼ標準治療のみとせざるをえないのが医学の現状であり、総合的な治療は、求めてもなかなか手に入らない。だが、大規模な臨床試験が終わるまで何年も待つなど、できない患者も少なくない。
 そういう患者に総合的な介入方法を提供するには、しかも、しっかりと研究した上で、安全な介入方法を提供するには、私のような研究者が必要らしい。私は、がんなどの疾病につ いて画期的な治療方法を確立しようともがく臨床医の方々と つきあっているうちに、そう思うようになった。
 だから、クリエイト・キュアーズ基金を立ち上げた。その
目的は、根拠のある情報を公開し、科学に基づいていて信頼性があり、臨床的な試験もおこなわれている方法を従来型治療に追加し、治療の効能を増やして副作用を減らしたいと願う人々の役に立つことである。患者のケアにおける医師の役割を減じようということではなく、逆に、たしかな動物データや臨床データで支えられている総合的な対処方法の情報を提供することで、医師の役割を増そうというものである。
 ただ最近は、研究資金の確保がだんだんと難しくなっていて、とくに、独創的な手法や代替手法の研究は資金が得づらい。だから、本書の印税は全額をクリエイト・キュアーズ基金など、非営利の大学や組織に提供することにした。
 そんなわけで、1 冊と言わず、友だちや家族に配る布教用 として複数冊を買っていただけるとありがたい。もらった方 の役にも立つし、老化やがん、アルツハイマー病、パーキン ソン病、循環器系疾患、多発性硬化症、クローン病や大腸炎、糖尿病(1 型・2 型)の研究支援にもなるからだ(例に挙げたのは私たちが基礎研究を進めている疾病で、臨床試験も計画中や実施中である。なかには、臨床試験を成功裏に完遂し、報告書を出しているものもある)。
 私たちとしては、幅広く創造的に考えることで、少しでも 早く、研究から、実際に活用可能な優れた治療方法を編み出 したいと願っている。そのため、南カリフォルニア大学のレ ナード・デイビス老年学科と、全米有数の規模とレベルを誇 る大学病院であるケックメディカルセンター、イタリアはミ ラノのIFOM がん研究所で基礎研究と臨床試験を継続しつつ、ハーバード大学、メイヨークリニック、シャリテベルリン医科 大学、ライデン大学、ジェノバ大学など、なるべく多くの一 流病院や研究機関とも連携している。研究の最新状況や臨床試験の予定などは、私のフェイスブックペー(@profvalterlongo)とwww.createcures.org で公開している。
 私のところに届く問い合わせは、いつも、基本的に同じだ。疑似ファスティング食なら実際にファスティングせずにファ スティングの効果が得られると聞いた、どういうものなら
「ファスティング」中に食べられるのか教えてほしい、である。
 そんなことから、FMD を誰でも安全・効果的に活用できるようにとL ヌトラ(www.l-nutra.com)なる会社を立ち上げることにした。そして、さまざまな機関から資金を提供していただき、米国国立がん研究所と米国国立老化研究所の協力も得て、最初にがん患者用FMD のケモリーブ、続けて一般向けのプロロンを開発した。
 なお、L ヌトラから私が得る分も、すべて、クリエイト・
キュアーズ基金など、私たちが使命としている研究を推進する非営利組織に提供している(L ヌトラからは給料もコンサルティング料金ももらっていない。ただし、最低限の必要経費は精算してもらっている)。また、L ヌトラ製品の価格決定に直接はかかわっていないのだが、品質を犠牲にしたり、製品を世界中に提供できるほど会社が成長できなくなったりしない範囲で、なるべく多くの人が買える価格にしたいとできるかぎりの努力はしている。
 プロロンは、米国ならL ヌトラのウェブサイト経由で買え
るようになっていて、医師やヘルスケアを提供する人々に推奨していただいている。ケモリーブは、現在、南カリフォルニア大学、メイヨークリニック、ライデン大学などのがん研究所で試験をおこなっている段階である。また、ほかの疾病に関しても、資金が確保でき次第、それぞれに適したFMDを開発し、試験をおこなうことになっていて、たくさんの研究機関が名乗りをあげてくださっている。
 このような製品を買ってプロの監督下で使う必要があるの
か、それとも、自分でFMD をすることも可能なのかというのも、よく尋ねられる質問だ。
 そういうときは、私が考案したプロジェクトの半分、すなわち日常的な長寿食の部分は、スーパーでふつうに売られている食材で構成されていて、特別な製品も不要なら医師の監督も不要だとお答えしている。長寿食だけでもさまざまな疾病の予防に役立つし、病気や症状が軽快する効果も期待できる。また、FMD の必要頻度を引き下げる効果もある。
 一方、FMD については、FMD 用の製品を使う場合と使わない場合、監督がある場合とない場合など、さまざまな条件で多くの患者を診てきた経験から、臨床試験がなされた製品を使うべきだし、なるべくなら、管理栄養士か医師の監督を受けておこなうべきだと私は考えている。
 材料は完璧に安全なものだけとしてあるが、ファスティングもFMDも老化や疾病と闘えるほどに強力なわけで、使い方を誤れば、なにがしかの副作用があり得るし、場合によっては激しい副作用が出る恐れもある。安全性と効能を最大にするには、適切なスクリーニングと監督を受け、臨床試験がすんだ製品を用いるべきなのだ(1 日を超える長期のファスティングは専門家に監督してもらって病院でおこなわなければならないというのが、専門家の基本的な見解である)。
 ちなみに、プロロンは臨床試験もおこなわれていて、これを使えば、ほとんどの人は自宅でFMD をおこなえる。ただし、健康な場合でも、管理栄養士に相談できるのであれば、事前に相談すべきである。とくに初回は相談を強くお勧めする。なにがしかの病気であると診断されている場合には、医師に相談し、許可を得なければならない。そのような相談を受けてくれる医師は、Lヌトラのウェブサイトにリストアップしてある。 


第 1 章 カ ル ー ソ の 噴 水

モ ロ ー キ オ に 戻 る

 イタリア南端から北へ1 時間半ほど車を走らせると、カラブリア地方のモローキオという小さな町に着く。モローキオという名前は、紫色のきれいな花が咲く薬用植物、ゼニアオイを意味するギリシア語の「モロク」から取られたものだろう。町の真ん中には広場があり、そこの噴水では、アスプロモンテ山を水源とする冷たい地下水を飲むことができる。
 私は、1972 年、5 歳のとき、母と一緒にこのモローキオへ
行き、そこに、半年も滞在した。祖父のアルフォンソじいちゃんが、ヘルニアで臥せっていたからだ。きちんと処置をすればよかったのに、ずっと放置していたらしい。
その祖父が亡くなったとき、みんなは、目を開けてと祖父の名前を呼んだ。でも私は、「みんな、わからないの? もう死んじゃってるんだよ?」と言った。私はじいちゃんっ子だったし、その祖父が亡くなったのはとても悲しかったのだが、それでも、なぜか、老化と死は自分がなんとかすべきものだ、どうにかして自分がみんなを導くべきものだと思えたのだ。
 祖父宅の近くに、祖父と同世代のサルバトーレ・カルーソという人が住んでいた。
このサルバトーレと私は、祖父が亡くなった40 年後の 2012 年、セル・メタボリズムという科学誌に登場すること になる。モローキオの老人は基本的に低タンパク食なのだが、米国においても、そういう食事のほうが、がんになる率や全 死因死亡率が低いと報告する私の研究グループの論文が掲載 されたからだ。108 歳のサルバトーレがカラブリアオリーブの木々に囲まれている写真がその号の表紙を飾り、その写真は、ワシントンポスト紙をはじめ、世界中のメディアにも取りあげられた。
 そしてその2 年後、サルバトーレはイタリアで最年長の男性となった。またこのとき、人口 2000 人ほどのモローキオは、100 歳以上のいわゆる百寿者が彼を含めて4 人と、世界最高クラスの百寿率となっていた(沖縄は広い地域として世界最高の百寿率だとされているが、その4 倍に達していた)。
サルバトーレは、2015 年に110 歳で亡くなるまで、ずっ と、モローキオで噴水の水を飲んでいた。そして、この町は、長生きの人が驚くほど多い。ということは、この噴水こそ、若返りの泉なのかもしれない―そう思う人もいるだろう。夢のある考え方だが、長寿の科学をずっと研究してきた私に 言わせれば、現実は違う。だから、わざわざモローキオまで 行き、若返りの泉で水を飲む必要はない。実際に行けば、そ こに住む百寿の人々から長寿の秘訣を学ぶことができるだろ うが。

伝 統 か ら 科 学 へ

 運なのか運命なのか、私は、さまざまな食生活や食文化を自分の目で見て体験してきた。子ども時代に夏休みをすごしたモローキオは、カラブリア地方の食文化だったし、生まれ育ったジェノバの食生活はリグリア地方の食文化で、魚は食べるベジタリアンだった。移り住んだ先のシカゴとテキサスはヘビーなアメリカンフードだったし、いまいるロサンゼルスは若々しさの聖地とも言える場所で、健康至上食だ。
 このように、栄養学的にピンからキリまであらゆる食事を経験してきたから、私は、食べ物と病気、長寿の関係について仮説をいろいろと立てられたわけだ。また、健康に長く生きるためには、科学的研究や疫学的研究、臨床的研究に加えて、上手に年を取っている人々の研究もしなければならないと悟ることができた。
 当時はまるで気にしていなかったのだが、実は私は、世界的に見ても健康的な食文化の地域、ふたつで育った。
イタリアも、トスカナ州は肉、ラツィオ州とエミリアロマーニャ州はクリームベースのヘビーなソースで知られている。対して、私が育ったリグリア州とカラブリア州は、ミネストローネ、クルミソースのパンソッティ(野菜を包んだラビオリのようなパスタをクルミソースであえたもの)、ファリナータ(ヒヨコマメとオリーブオイル)など、いわゆる複合糖質と野菜が中心の料理なのだ。
 子どものころは、毎年、夏休みをカラブリアですごしていたが、あそこの食生活はとても簡素だった。
ほぼ毎朝、私たち兄弟の誰かが坂の上のパン屋さんへ行き、焼きたてのパンを買ってくる。全粒粉の黒っぽいやつだ。二 日に一度は、昼か夜かに、インゲンなど、たくさんの野菜と 少量のパスタを煮たパスタ・エ・バイアネイアだ。塩引きせ ずに干したタラに野菜をつけあわせたストッカフィッソとい う料理もよく出てきた。材料としては、ブラックオリーブ、オリーブオイルにたくさんのトマト、キュウリ、ピーマンと いう感じだ。肉は週に一度、日曜日のごちそうだった。マカ ロニパスタにポルペッタ(ミートボール)が2 個というのがふつ うで、ステーキのこともあった。
 飲み物は、山の清水、地元のワイン、紅茶、コーヒー、アーモンドミルクだ。朝には牛乳ではなくヤギの乳をよく飲んだ。
 間食は、ピーナッツ、アーモンド、ヘーゼルナッツ、クルミ、レーズン、ブドウ、トウモロコシ。
夜 8 時には夕食を終え、それから朝まではなにも食べない。
スイーツは木の実とドライフルーツでできていた。お祭りのときに出てくる特別なものでさえそうだった。アイスクリームはなくて、そのかわり、グラニータという氷菓を食べていた。スムージーとシャーベットの中間という感じのものだ。果物たっぷりで最高だと私は思うが、糖質の塊であることはまちがいない。ちなみに、おいしいスイーツが食べたければ、10km ほど先のタウリアノーバまで行かなければならなかった。
ジェノバもジェノバがあるリグリア州も、伝統的な食事は カラブリア州と同じくらい健康的だと言われている。低糖質 だし、本書で紹介する長寿食に欠かせない野菜やヒヨコマメ、オリーブオイル、アンチョビ、タラ、ムール貝をよく食べる のだ。


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