
10倍速で「未来の自分」になる方法
「未来の自分」が変われば、現実は変わる。
目 次
はじめに 2 INTRODUCTION
心理学の180度転換 11
P A R T 1 「未来の自分」への7つの脅威 61
脅威その1 未来に希望がなければ現在は意味を失う 70
脅威その2 辛かった過去ばかり語っていると未来を妨げる 82
脅威その3 自分の環境に無自覚だと一貫した進化ができない 93
脅威その4 「未来の自分」とつながっていないと近視眼的な決定をしてしまう 104
脅威その5 目先の闘いと小さな目標で前に進めない 113
脅威その6 闘いの場にいなければ負けは確実だ 123
脅威その7 成功は失敗のカタリスト(誘因) 130
7つの脅威 まとめ「未来の自分」の脅威 140
P A R T 2「未来の自分」に関する7つの真実 143
真実その1 「未来の自分」が現在を決める 155
真実その2 「未来の自分」はあなたの予想を上回る 167
真実その3 「未来の自分」は現在の自分のツケを払うことになる 178
真実その4 「未来の自分」が明確で詳細なほど早く進歩する 195
真実その5 「未来の自分」の失敗の方が「今の自分」の成功よりも重要 204
真実その6 成功は「真実の自分」に誠実であることでもたらされる 215
真実その7 世界観が「未来の自分」に大きな影響を与える 222
7つの真実「未来の自分」の真実 236
P A R T 3「未来の自分」を実現するための7つのステップ 239
ステップその1 現状に即した目的を決めよう 245
ステップその2 重要度の低い目標は排除しよう 266
ステップその3 「必要」から「欲求」、さらに「確信」へと高めよう 277
ステップその4 欲しいものははっきりお願いしよう 288
ステップその5 「未来の自分」を自動化・体系化しよう 299
ステップその6 「未来の自分」のスケジュールを決めよう 307
ステップその7 不完全な作業は積極的に完成させよう 316
7つのステップ「未来の自分」のステップ 327
今すぐ「未来の自分」になろう まとめ 399
特典のご案内 336
謝辞 337
参考文献
「なるべきか、ならざるべきか? それが問題だ」
――︱ウィリアム・シェイクスピア、『ハムレット』
はじめに
本書の日本語版が刊行されることを、心より嬉しく思う。本書は、世界のさまざまな国にお
いて大好評をいただいており、私自身大変驚いている。韓国では、ここ数カ月間でベストセラーのうちの1冊となっているほどだ。本序文では、本書そしてそのページに綴られている科学的知識が、なぜそこまでパワフルだと私が考えるのか、その理由についてお伝えしたい。
まず、科学的な根拠を示そう。心理学的な視点からすると、時間とは、時計が示すような形では存在していない。私たちは、時間とは自分の外にあるもので、自分自身とは切り離されたものだと考えがちだ。これは実際、アイザック・ニュートンの理論と視点の土台になっているが、現在は最新の物理学と神経科学によってアップデートされている。
非常にシンプルに説明すると、自分自身の過去と未来をどう見るかが、現在をどう見て、ど
う行動するかを直接的に決定づけるのだ。ある人物がその人の過去や未来をどう見ているかを理解せずに、その人が今、何者であるかや、何をしているかを理解することなどできない。それはまるで、音楽で、前後の音符がないのに、たった1つの音符を理解しようとしているようなものだ。何の脈絡もなく音符がたった1つでは、まったく意味がない。
この点は非常に重要だ。心理学的には、過去が現在を決めることはない。過去の意味を形作
り、さらにそれを変えていくのは必ず、今現在にいる人だ。私たちは、自分の過去全体、あるいは特定の状況だけでも、そこにある意味を変えるパワーを持っている。さらに、「過去の自分」や、その物語の登場人物が持つ意味を変えることもできる。時間を、過去が現在を決める直線的なものとして見るならば、現在における主体性や自由意志を失ってしまう。現在という時間は、過去の「助手席」に座っており、変えることもできなければコントロールすることもできないということだからだ。「過去の意味を決めるのは現在であり、その意味を改めて形作るだけのパワーは、現在にいる私たちの手中にある」と知ると、非常にワクワクする思いだ。
とはいえ、自分自身の過去をどう見るにせよ、それが、現在という時間で自分がどんな行動を取るかに、直接的に影響するということを、きちんと理解することが非常に大切だ。そのため、自分の過去をどう語るかについて、完全なる責任を負わなければならない。
ところで、「未来の自分」に関して、ありがちな間違いがある。「現在の自分」を土台にして、「未来の自分」を想像してしまうのだ。そうなると何が起きるかというと、未来は現在と非常に似たものになる。そしてそのせいで、過去に自分がしたように生き、行動することになるのだ。研究では、今の自分とはまったく異なる「未来の自分」を想像するほうが、望む未来を手に入れるのにずっと効果的だという結果が出ている。現在に未来を決めさせるより、新たな未来︱それが例え一見不可能に思えるものでも︱に、今現在の自分が何者でどんな行動をするかを決めてもらった方がいい。
私自身、自分の人生でこれを何度も実践し、一度は不可能に思えたことでも実現してきた。
一見すると不可能に思えるゴールを追い求めるとき、「イマココ」での行動はガラリと変わる。私は博士課程の学生だったとき、プロの著者になりたいと思っていた。それどころか、ニューヨークにある出版社と数十万ドルの出版契約を結びたいと考えていたのだ。これは、当時の私からはとても不可能に思えた。ところが、「未来の自分」というフィルターを通して「現在の自分」が下す決断を見てみると、この未来にはそぐわないことを自分がたくさんしていることに気づいた。そうした決断は、むしろ過去の自分に合っていたのだ。そこで私は、ゴールに導いてくれる可能性を秘めた新たな道のりを見つけてそこにフォーカスするために、未来の目標にはそぐわないあれこれを手放した。
複数のプロの作家や出版エージェントから、10年はかかると言われた。しかし私は、なりたい「未来の自分」がするであろう行動を取ったことで、2年もしないうちに、不可能だったはずの未来を手に入れた。
あなたにもできる。
時間は、あなたが思うようなものではない。あなたが自分の未来をどう見るかが、今のあな
たの行動とふるまいを突き動かす最大の要因なのだ。
本書は、「未来の自分」をどう想像し実現するか︱例えそれが一見すると不可能に見える
ものでも︱を、これまで書かれた書物の中でもっとも実践的な形でお教えする。
あなたが本書を読んでくれることを、非常に嬉しく思う。私は、日本の人たちが大好きだ。
家族とともに東京を訪れたこともある。なんと美しい場所だろう!
いつかまた、みなさんに会うために日本を訪れることができるよう願っている。
2024年8月6日 ベンジャミン・ハーディ博士
心理学の180度転換
アイデンティティ
自分が一番真剣に取り組んでいるもの
「自分がなりたいと思う存在の意識になりきれば、現状から救われる」
─ネヴィル・ゴダード〈1〉
私たち人間は、慈悲の命ずるところから逃れられないという事実は祝福に値する。人は皆、誰かの助けを受けてこの世に誕生する。人が成長し、苦境を乗り越えて成人となれるのは、誰かに守られ、支えられたからにほかならない。自力で何でもできる壮年期ですら、他者の愛と協力の有無次第で幸福にも悲惨にもなり得る。それが人間というものだ。人はか弱く、それは天恵だ。怖れなき心は、人であることの基本的真実を受け入れる。私たちは勇気を持って物事を直視し、慈悲の心でこの世界に存在し、この星に生きる人間であることの証(あかし)としての苦痛や喜びに対してハート全開で臨むよう、進化することができる。社会的・道徳的動物として、人は認められ、尊重されることを希求する。特に愛する人々にとって大切な存在でありたいと願う。人は自らの存在が何らかの目的のために生きていると考えたい。私たちは「意味を求める」動物だ。他者とのつながりを通して、人は他者にとってかけがえのない存在となり、他者の暮らしに喜びをもたらすことで自らの存在に意味が生まれる――こうして人は自らの命に価値と目
2015年10月4日の夜、11年生(高校2年生)で17歳のジミー・ドナルドソンは、歴史の試験勉強をする代わりに、4本のユーチューブ動画を撮影した。
ジミーはそれまでの3年間、精力的にユーチューブ動画をつくってきたのだが、このときに撮ったものはわけが違っていた。いつものように、ゲーム実況をしたり、有名なユーチューバーの生活や収入を話題にしたりはしなかった。本音と弱さをさらけ出した自分との対話に、視聴者を招き入れたのだ。
最初の動画では、半年後の自分である「未来の自分」に語りかけた。
2本目の動画では、1年後の「未来の自分」に。
3本目の動画では、5年後の「未来の自分」に。
そして4本目、10年後の「未来の自分」に語りかけた。
それぞれ、2分ほどの長さだ。
何も奇をてらったものではない
しかし極めて重要なこの瞬間にジミーは、「未来の自分」に何を求めているのか、どうあってほしいかについて、赤裸々に正直になった。
いつもならすぐに公開するところだが、このときは各動画を未来に︱2015年10月4日からきっかり半年後、1年後、5年後、10年後にそれぞれ公開されるよう設定した。
半年後の2016年4月4日、最初の動画がジミーのユーチューブ・チャンネルで公開された〈2〉。
動画の冒頭でジミーは、自分のチャンネルが今どのような状態かを見せるため、パソコン画面を映す。
「この動画の撮影時点で、登録者数は8000人、総再生回数は180万回。みんながこれを見るとき、この数字と今みんなが見ている数字とを比べてほしい」
ジミーはその後、「未来の自分」と短い会話をする。
「半年後の自分には何を伝えたいかな? できたら、今も毎日アップロードを続けていてほしい。できれば、未来の僕である君の登録者数は、少なくとも1万5000人。もしそうなっていなかったら恥ずかしいだろうな。そうしたらみんなは(視聴者に語りかける)きっと、あ~あって感じになっちゃうよね。今のところ、まだユーチューブを楽しんでいるよ。未来の自分も、まだ楽しんでいるといいけれど。登録者数が半年後には信じられないくらい、例えば2万人とかになっていたらすごいね」
ジミーは半年後、目標を達成していた。それどころか、「1年後の未来の自分」の動画が2016年10月4日に公開されるころまでには、チャンネル登録者数は「半年後の未来の自分」動画の公開から10倍に増え、20万人以上になっていた。
ジミーは、動画をコンスタントにつくり続け、多くの人に視聴された。その動画は大胆で斬新になっていった。
ジミーは、自身のブランドである「ミスタービースト」というキャラに完全になりきった。「未来の自分」動画制作は、人生のターニングポイントとなった。夢に向かって勇気を出したとき、この「自分との率直な対話」が、運命の分かれ道となったのだ。インターネット界きっての人気スターとして、ジミーはわずか数年で数億ドルを稼ぎだした
「未来の自分」について公言すれば過去の自分とすぐに決別できる
歴史のテスト勉強をせずに「未来の自分」について公言した夜、ジミーの心構えと、動画制作に取り組む姿勢は変化した。実際に、2015年10月の前と後で、ジミーの動画にははっきりとした違いが見て取れる。自分はカメラに映らないゲーム動画は減り、カメラの前に出ることが増えた。ミスタービーストのコンセプトとブランドを膨らませて、動画に登場する友達も起用した。この人物は今では、ミスタービーストのイデオロギーを一緒に支えてくれる、チャンネルのレギュラー的存在だ。
2016年6月1日、ミスタービーストの動画が初めてバズり、再生回数は2000万回以上に達した。ジミーと友達が、導入部分が優れたユーチューブ動画についてコメントする内容だ。このエピソードはこれまでよりも視覚効果を駆使しており、ミスタービースト自身にも、自信と余裕がうかがえる〈3〉。
その数日後、新しいスタイルを取り入れた動画を公開した。おもしろくて大胆な行動を取ったり、バカバカしいことをしたりする、のちに彼がよくやるようになるスタイルだ。このときは屋外用のピクニック・テーブルを購入し、プラスチック製のバターナイフだけを使ってテーブルを半分に切った。数時間かけてこのタスクをやり遂げるために、60ドル以上かけてプラスチック・ナイフを大量に購入。この動画は、300万回以上再生された〈4〉。
2016年8月23日、友達に食用ラップで100回グルグル巻きにされる動画を公開。再生回数は、200万回に上った〈5〉。
2016年10月16日、目にしたオンライン広告がすべてすぐに現実になるというコント動画を公開〈6〉。「新品iPadを当てよう」との広告を見た直後、真新しいiPadが突如、玄関前に現れる。「ノートパソコンのスピードを100倍アップ」という広告では、手元のノートパソコンがすぐに新しいものに変わる。ネタの解説を行ったあと、動画で使われたパソコンをミスタービーストと友達が破壊して、動画は終了する。
これは900万回再生された。
2017年1月8日、ミスタービーストは10万まで数える様子をライブ配信〈7〉。数え終わるまでに40時間近くかかり、再生回数は2000万回以上に達した。1カ月後、今度は20万まで数え、その後、30万まで数えた〈8、9〉。
2017年8月、「ローガン・ポール」の名前を10万回言う様子を撮影した〈10〉。
ミスタービーストの行動がさらにバカバカしくくだらないものになっていくなか、彼はなりたかった「未来の自分」へと進化していく。動画で行う実験はさらに大胆になった。ミスタービーストのブランドは成長を続け、そのお決まりのネタとして、寄付動画をつくるようになる。
2017年6月15日、ホームレスの男性に1万ドルを渡す動画を公開〈11〉。その後、1000ドルをホームレスの人たち10人に渡した〈12〉。
2017年8月15日、今度はゲーム配信用プラットフォームTwitch(ツイッチ)でゲームをライブ配信している人たちに、1万ドルの投げ銭をした〈13〉。
こうした寄付動画は、思いがけず大金を受け取った人たちが大興奮するリアクションを目玉にしていた。
2017年8月23日、ピザの宅配人たちにチップとして合計1万ドルを渡し、相手が感動する様子をネタにした動画を公開〈14〉。このお金が自分と妻にとってどれほどの意味を持つかを涙ながらに語って感謝する年配の男性に、ミスタービーストはハグで応えた。
2017年8月30日、ウーバーの運転手数人にチップとして合計1万ドルを渡す動画を公開〈15〉。渡す金額がどんどん大きくなっていくのに加え(当初このお金は、チャンネルの複数のスポンサーから得ていた)、企画内容やゲームは、多額の賞金が出る大がかりなものになっていった。
例えば、宙に浮くために風船がいくつ必要か調べる動画、車を100時間以上走らせて自分が住む州にあるウォルマート全店でチョコレートバー「スニッカーズ」を購入する動画、1セント硬貨だけで自動車を購入する動画、300万人目のチャンネル登録者に300万枚の1セント硬貨をプレゼントする動画などだ〈16、17、18、19〉。
3本目の「未来の自分」動画が公開された2020年10月4日までには、ミスタービーストはインターネット史上最速で人気が急上昇したユーチューバーとなっていた。登録者数は4000万人を超えていた。
誰もが知る存在となった。
スタッフ数30人以上、年間収益1億ドル以上の事業を運営していた。
動画の平均再生回数は3000万回で、なかには数億回に達するものもあった。
「5年後の自分に挨拶してみた」動画は、半年後や1年後の未来に向けた動画より、若干内観的だ。動画のなかでは17歳のジミーが、そのときの自分とは違う、もっと大きな「未来の自分」に語りかけている。
今、僕は高校生。みんながこれを見るとき僕は……大学生でさえもないな。大学のあとだ。わぉ、すげぇ。信じられない動画になるよ!
頭のなかで、グルグルと考えが巡っているようだ。
今は2015年。ちょっと待って、死んでたらどうしよう?
明らかに恐怖を抱いたジミーは、まるで言葉を塞ぐように手で口を覆う。目を大きく見開き、恐ろしそうな表情を浮かべながらこう続けた。
だったら奇妙だろうな。めっちゃ奇妙だ。安らかに眠ってくれ。やばい、だとしたら本当に奇妙だよ。
この動画が自分のユーチューブ・チャンネルに公開されるころには死んでいるかもしれない、という可能性についてじっくり考えたあと、「未来の自分」について、さらに真剣になる。
みんながこの動画を見るころまでに、チャンネル登録者数が100万人に達していなかったら、僕の人生そのものが失敗ってことになる。100万いたらいいな……100万人いなきゃダメだ!
ジミーのなかで、実現していなければいけない、という確信が高まる。
その後、夢を実現するプレッシャーを感じて椅子にもたれかかると、じっくりと考えに浸る。
そして、フーッと大きく息を吹き出して前髪を揺らす。
すごいな、だとしたら……
ジミーは言葉を失う。
頭を振って目を閉じると、自分は何を求めているのか、必死になって深く考え込む。頭を振りながら自室の天井を見上げ、撮影していることを忘れてしまうほど、なりたい「未来の自分」と深くつながる。
一瞬想像を巡らせてから、カメラとの対話を続ける。
どの大学に行くのかさえもわからないよ。
でもみんながこれを見るころには、高校を卒業して、大学へ行って、たぶん仕事としてユーチューブをしてる。できればね。たぶんね、たぶん。
夢を言葉にしながら、ジミーは自分の手を噛む。
あぁ、本当に今ごろチャンネル登録者数が100万人いたらいいな。
未来の僕、どうかお願い。なんでこんな手の動きしてるんだ?
そしてもう1度、こう宣言して動画を終える。
これが公開されるまでに、登録者数100万人いなきゃダメだ。
これを書いているのは2021年12月。ミスタービーストの「5年後の自分に挨拶してみた」が公開されてから、1年ちょっとだ。
登録者数は8200万人以上で、動画の内容はさらに大胆になっている。
ジミーは望んだとおりの「未来の自分」になったのみならず、自分が描いたビジョンを何度も打ち破った。
外の視点から見ると、過去6年間のジミーの変貌は、信じられないくらいだ。収益になる動画が1本もない、自室で撮影する17歳の子どもから、世界屈指の有名人になったのだ。非常に裕福でビジネス手腕に長けており、いつかはアメリカ大統領になりたいと熱望している。
私やあなたが人生で同じような結果を出すために、マネできる方法論は存在するだろうか?
答えは、間違いなくイエスという、ワクワクするものだ。ミスタービーストのすばらしい変貌については、近年の心理学の研究から非常にシンプルに説明できる。あなたもこのプロセスを活用すれば、望む結果を出したり人生を変えたりできるのだ。
本書では、まさにその方法をお教えする。
「心理学はその歴史が始まって以来ほぼずっと、〝人や動物は過去によって左右される〟という枠組みに支配されてきた」
マーティン・セリグマン〈20〉
1800年代後半から1900年代後半にかけての心理学は、人間の問題に焦点を当てていた。このころは「病理学」とされ、その理論と治療は、うつや自殺といった問題の緩和を中心としていた。人間の持フ ラーリッシング続的な幸福というコンセプトは、ほとんど注目されなかったのだ。
科学ではこの時期、人間とは、当人の過去から直接つくられる副産物だとされていた。この考え方は、「決定論」として知られている。人間の行動とは、その前にあるドミノによって倒される、1つのドミノにすぎないという考え方だ〈21、22、23、24〉。「過去の出来事」というドミノは、その人が何者であるかや、今何をしているかを左右する。人間の主体性や自由などは存在せず、単に刺激と反応があるだけだ。
言い換えれば、決定論によると、今日のあなたの人生は、あなたの過去から二次的に合成されたものということになる。
決定論は主要な考え方ではあったが、極めて限定的でネガティブだった。ある人物が多くの問題を抱えていたら、その問題はその人の過去によってのみ説明できる、というものだったのだ。そして悲しいことに、心理学の主要目的は、こうした問題を説明するのみで、解決することではなかった。
1990年代、自らを「ポジティブ心理学者」と呼ぶ革新的な心理学者たちは、心理学の中心となっていたこうした定説に疑問を呈した。そして、人が幸せを感じ、健康になり、成功するのはなぜかをもっと理解しようと、これまでとは異なる質問を投げかけ、異なるタイプの実験を行った。
この研究に加え、テクノロジーや神経科学の飛躍的な進歩のおかげで、何が人となりをつくるのかについて、これまでとはまったく異なるものが描き出された。現代の研究ではむしろ、それまで信じられていたものとはほぼ真逆の説明がなされている。
現在の研究では、ある人物の行動やふるまいは、その人の過去によって突き動かされたり、左右されたりするものではないことが示されている。それどころか、人は未来に引っ張られているのだ〈25〉。
人間として私たちは、地上にいるどの動物も持ち合わせていない特徴を持っている。人は、自分の未来を考える能力を持つのみならず、未来の可能性を描くシナリオを無数に持つことすらできる。さらに、将来の見通しについて、じっくりと思いを馳せることもできるのだ〈26〉。
例えばあなたの目の前には、多くの選択肢があるだろう。新しい仕事に就くか転職せずにとどまるか、海外移住するか地元にとどまるか、などだ。実現できそうな未来の可能性は多くあり、下せそうな人生の決断は数えきれないほどある。人はこうした選択肢について考え、どの方向に進むかを最終的に決定する。
心理学者はこの人間特有の能力を、「プロスペクション」と呼んでいる。人として、私たちの行動はすべて、未来の展望(プロスペクト)によって突き動かされている〈27〉。プロスペクションは、世の中に対する目的論的な見方に基づく。つまり、人間の行動やふるまいはすべて、短期的にせよ長期的にせよ、何らかの目標によって突き動かされているという考えだ〈28〉。
目的論によると、人間の行動にはすべて、目的がある。目的は、目標という言葉に言い換えられる。たとえ当人はその行動の目標を意識していなくても、人間の行動はすべて、目標駆動型だ。
例として、食べ物を取りに冷蔵庫へ行くことを考えてみよう。この行為は、「空腹を癒やす」「気分転換」「おいしいものを食べたい欲求を満たす」などの目標によって、突き動かされている。目標が何であれ、それが冷蔵庫へ向かう原動力だ。
また、学校へ行くという例もある。人は理由があって学校へ行く。生徒はそれぞれ、自分なりの目標があって出席しているのだ。ある生徒は、大学の受験資格が欲しいからかもしれない。別の生徒は、親に無理強いされており、問題を起こしたくないので学校に来ているのかもしれない。授業を受ける動機はかなり違うものの、どの生徒も、目標を果たすためにそこにいる。
目標は本人が意識したものでもなければ、インスピレーションが得られるものでもないかもしれないが、それでも生徒なりの理由はある。ということは、たとえ単なる一時的な快楽や逃げが目標であっても、有害なドラッグをしたりSNSで時間を浪費したりといった行動もまた、理由があって突き動かされているのだ。
次のような質問を、自分に投げかけてみるといいだろう:
- この活動の理由または目標は何だろうか?
- 私はここから何を得ているのだろうか?
- この活動は自分をどこへ連れて行ってくれるのだろうか?
特定の出来事や行動を理解するには、3つの階層がある。
1.何が(What)
2.どのように(How)
3.なぜ(Why)
レベル1 は、何が起きたかを説明するものだ。先ほどの学校へ行く例では、
「彼は学校へ行った」が、ここでいう「何が」だ。
レベル2は、その行為をどう行うかという手段を説明するものだ。このケースでは、
「彼は学校まで車に乗せてもらった」と言える。
レベル3は、その行為をなぜするかという動機を説明するものだ。人の行動には
すべて、必ず動機がある。その動機が、その人の行動の理由あるいは目標だ。
この動機を知ることは、知識のあり方として、もっとも深遠でありパワフルでもある。とい
うのも、「なぜ」は常に、「何が」と「どのように」の原動力になっているからだ。株式市場がなぜ上昇したり下落したりするのかを理解すれば、投資に関する決断は楽になる。ある人物の行動の動機がわかれば、その行動やふるまいに納得できるようになる。
人の行動の背後には必ず、動機あるいは目標がある。人が活動する際には常に、目的あるいは理由があるのだ。目標や目的を意識的かつ明確に選べば選ぶほど、「どのように」という手段は自然と、なんとかなるようになる。そして目標や目的にかなった行動を取るようになる。逆に意識的な目的を持っていないと、「どのように」という部分は矛盾と混乱に満ちてしまう。
あらゆる目標あるいはモチベーションは、アプローチ型か回避型という2つのカテゴリーに当てはまる。人が行動するのは、起きてほしいことにアプローチするためか、起きてほし、くないことを回避するためなのだ。一般的に、パーセントの人は主に恐怖心からか、何かを回避するために行動しており、パーセントの人は勇気か、何かにアプローチすることが行動の原動力になっている。
デヴィッド・R・ホーキンズ博士は次のように説明する:
広告業界は、商品を売るために人の恐怖心を利用している。深い悲しみという感情は過去から来るものだが、恐怖は、私たちが普段経験するように、未来に対して抱く感情だ。平均的な人は、恐怖という感情は日常のなかで、心配、不安、パニックなどとして経験する。(中略)恐怖という感情は、縮こまることであり、また未来への恐れでもある。
アプローチ型であれ、回避型であれ、どちらのモチベーションも目標であることに変わりはない。例えば、住むところを失いたくないから仕事へ行くのは、回避型の目標だ。昇進したいから仕事へ行くのは、アプローチ型といえる。
それがポジティブであれネガティブであれ、アプローチ型であれ回避型であれ、理由あるいは目標が、思考、エネルギー、行動の原動力になっている。
いずれにせよ人間とは、自分が見ている未来に基づいて行動するのだ。それはもしかしたら、回避しようとしている未来かもしれないし、築こうとしている未来かもしれない。その未来はもしかしたら、年先かもしれないし、数秒先かもしれない。
平均的な人の場合、行動は第一に、恐怖に突き動かされていることに加え、短期的な目標に駆り立てられているのがほとんどだ。例えば、仕事をこなす、その日の終業時間や週末までがんばって働く、生活費を稼ぐ、といった長期的な目標ではなく、SNSで気を紛らわせる、といったことだ。
ラッパーであり大物実業家でもある50セントと、著者のロバート・グリーンは、『恐怖を克服すれば野望は現実のものとなる』(トランスワールドジャパン)のなかでこう述べている:
意識を持った理性的な生き物である人間は本質的に、未来を考えずにはいられない。しかしほとんどの人は恐怖心から、明日や数週間先のこと、あるいは数カ月先のぼんやりした計画程度の狭い範囲だけに、未来の視界を制限してしまう。私たちはたいてい、目先の闘いばかりに取り組み、その瞬間より先に目線を向けることができない。しかしながら、未来をより遠く、より深く考えれば考えるほど、願望を形にする力が大きくなるのが、力の法則だ〈32〉。
恐怖に駆り立てられる状態は、勇気やビジョンに駆り立てられるよりも、意識の低い状態だ。恐怖が原動力であるところから、受容、勇気、愛を理由に行動するレベルへと移行するには、感情面で大きく成長する必要がある。
人間の行動を突き動かす感情的な原動力は主に恐怖だが、それに加え、心理学者のなかには、人間は数年先、数十年先の未来までしっかりと考えられるほど、進化してはいないと考える人もいる〈33〉。私たちの先祖である狩猟採集民は、65歳までに引退しようなどと計画してはいなかった。代わりに、次の食べ物の戦略を立てたり、自分が食べ物にならないようにしたりする必要があったのだ。
人が先を考えるのが苦手であるさらなる証拠として、アメリカ人が引退に向けて計画を始める年齢の中央値が、27歳であることを考えてみてほしい。目標に到達するまで40年近くあるにもかかわらず、老後の備えとしての貯金額の中央値は、10万7000ドルだ。27
歳にとっては多額に聞こえるかもしれないが、引退後の月収と考えると、わずか310ドルとなる。
たったそれだけだ。
65歳に関連した話として、人が遠い未来に向けて考えたり戦略を立てたりするのが苦手であるもう1つの理由に、人間の平均寿命がここ150年で、2倍近く伸びたことがある。1860年のアメリカにおける平均寿命は39歳だった〈34〉。将来を見越して計画するには、80年は先が長い。
効果的に生きようとしても、それを邪魔するようなあれこれは多い。幸せで満ち足りた人生を生きるには、目標を、恐怖に基づいた受け身的で短期的なものから、愛に基づいた積極的で長期的なものにシフトさせることだ。「未来の自分」をどう見るかが、前へ進む羅針盤となる。
ここで、近年増えている、プロスペクション、アイデンティティ、「未来の自分」というテーマでの研究を見てみよう。「未来の自分」をどう捉えるかの重要性について研究する心理学者の数は、どんどん増えている。TEDトークでは、著名心理学者らが「未来の自分」とつながり、実現することがいかに重要かという話をしている。
近年行われた、以下のTEDトークのテーマを考えてみてほしい:
- 「未来の自分」の心理〈35〉
- 現在の自分と「未来の自分」との戦い〈36〉
- 「未来の自分」に必ず聞くべき質問〈37〉
- 「未来の自分」への旅〈38〉
- 「未来の自分」からのアドバイス〈39〉
- 「未来の自分」に挨拶しよう〈40〉
- 「未来の自分」に手を貸すには?〈41〉
- 「未来の自分」のために先を考える〈42〉
- 今の自分を「未来の自分」にするには〈43〉
- 「未来の自分」に挑もう〈44〉
- 「未来の自分」になるには〈45〉
プロスペクションと「未来の自分」の科学が進歩し、ますます説得力を持つなか、「未来の自分」のコーチング・プログラムや瞑想プログラムの開発が行われている。
にもかかわらず、このトピックについてきちんと書かれた書籍は、これまで1冊もなかった。この分野の科学はまだ日が浅く、心理学者は最先端の研究を行っているところだ。「未来の自分」の科学は、今後20年間で進歩するだろう。本書は、現時点におけるこの分野での最先端の科学的知識を、読者のみなさんに提供するものだ。
非常に実践的な本になっており、読者のみなさんは次のことを学ぶことになる:
- 「未来の自分」の科学
- なりたい「未来の自分」とつながり、それを実現する方法
- ミスタービーストが本能的にしたように、
今想像する「未来の自分」を大きく凌駕する方法
「未来の自分」とのつながりの質が、今の人生や行動の質を決める。「未来の自分」とのつながりが強ければ強いほど、今ここで下す決断が賢明になることが、研究ではっきりと示されているのだ。「未来の自分」に思いを馳せれば、引退後の豊かな生活に向けて投資したり、運動したり、健康的な食事をしたりする可能性が高くなり、違法行為や自己破滅的な行為をする可能性は低くなる〈46、47、48〉。
「未来の自分」というコンセプトはシンプルでありながら、実践する人は少ない。質の良い決断を下すには、その決断によって自分がどこに向かうかを知ることだ。最善の決断や行動は、自分が求める結果を解析するところから生まれる。まずは自分が何を求めているのかを考え、そこから逆算しよう。目標に向かうのではなく、目標を考えてそこから行動するのだ。脳はこれを自動的にやっている。実際に神経科学者は今や、脳は本質的に「予測する機械」であり、そこで予期した未来に向けて人を行動させている、という点で同意している〈49〉。学習とは、脳がする予測をアップデートし、改善するプロセスなのだ〈50〉。
どこへ行きたいかはっきりしていればしているほど、無限の選択肢によって注意力が散漫になることが少なくなる。
「未来の自分」から切り離されていると、目先のゴールに夢中になってしまい、今の行動の質が低くなってしまうことが多い。たいていの人にとって、これは普通だ。
多くの人は、主に短期的な目標に駆り立てられているが、そこでの決断によって引き起こされる、長期的な影響を考えていない。アニメ番組『ザ・シンプソンズ』の2010年放送のエピソード「マネーバート」は、この現実をよく表している。無責任な父親であるホーマーは、自分が負うべき責任に直面してアルコールに逃げるという内容だ〈51〉。
妻のマージは、ホーマーを軌道修正しようとする。「いつか子どもたちも家を出ていくわ。そのとき、子どもたちともっと一緒に過ごさなかったことを後悔するのよ」
「それは未来のホーマーが悩めばいいことだよ」とホーマーは首を振る。「そいつのこと、ちっとも羨ましいと思わないね」というと、マヨネーズが入っていた大ぶりのガラス瓶にウォッカを注いで飲み干し、心臓発作らしきものを起こして倒れ込む。
私たち視聴者がホーマーを見て笑うのは、心の奥底で、自分も同じだとわかっているからだ。子どもよりもマヨネーズとウォッカを選ぶことはないかもしれないが、問題はいつも意図的に「未来の自分」に託してしまう。
1990年代、テレビ番組「レイト・ショー・ウィズ・デイヴィッド・レターマン」に出演したコメディアンのジェリー・サインフェルドは、人間が陥りがちな苦境を話題にした:
ある広告を見たんです。「6月まで支払いナシ」ってコンセプト、いいですよね。
「6月か。6月なんて来ないよ」ってみんな思う。
それでいろいろ買い物をしながら、「6月のアイツならなんとか金はできているだろう」って思うんです。
僕もいつもこれをやってしまいます。
例えば夜遅く、「まあ夜だけど、楽しいからまだ寝たくないな」
「俺は夜の男なんだ」
「睡眠時間5時間で起きなきゃだって?」
「そんなの朝のアイツが気にすりゃいいんだ。アイツに心配させとけばいい。俺は夜の俺だから、パーティしなきゃ」
それで5時間だけ寝て、不機嫌で疲れ切った状態で目が覚める。
夜の男は朝のアイツにいつも迷惑をかけるんです。
でも朝のアイツが、夜の男に仕返しできることなど何もない。
朝のアイツができることといったら、何度も寝すごして、昼間のアイツを仕事でクビにさせること。そうすれば、夜の男は出かける金がなくなってしまうからね。
レターマンは笑いながらこう言う。「現代アメリカ人の葛藤をうまく表現していますね」〈52〉
「未来の自分」から切り離されているために、人はすぐ目先の目標か、ドーパミンによる刺激を選んでしまう。短期的な結果を求めるこの行為は、「未来の自分」にとって大きな代償となる〈53〉。ハーバード大学の心理学者であり「未来の自分」の研究者でもあるダニエル・ギルバート博士も、「なぜ私たちは、『未来の自分』が後悔するような決断を下すのだろうか?」と問いかけている〈54〉。
ここから、直感的にはわかりにくいものの、重要な真実が浮かび上がってくる︱「未来の自分」につながればつながるほど、現在をうまく生きられるようになるのだ。
- 人の行動やふるまいを駆り立てているのは、過去ではなく未来である。
- すべての目標は、「アプローチ型」と「回避型」という2つのカテゴリーに分けられる。
- 「未来の自分」につながっていると、「今」をありがたいと思え、受け入れられ、愛することができる。
- 「未来の自分」とつながっていることで、今という時間の目的と意義が生まれる。
- 遠い先の「未来の自分」とのつながりが強ければ強いほど、賢明で優れた決断を今下せるようになる。
「未来の自分」につながることで、幸せで生産的になれるし、成功できるのだ。
ここが驚くべき点だ。「未来の自分」とのつながりのおかげで、今の自分と現状が向上する。かけがえのない宝の山、つまり今の人生を心の底から尊重できるようになる。今をパワフルに生きるには、未来とつながることだ。
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